鼻中隔湾曲症とは
鼻の穴の間の仕切りを鼻中隔と呼びます。ほとんどの大人は鼻中隔が左右どちらかに曲がっていますが、日常生活に支障がなければ特に問題はありません。鼻中隔の曲がり方が大きく、鼻づまりや鼻血が起こりやすい、副鼻腔炎が再発しやすいなどがある場合には、鼻中隔湾曲症と診断されます。鼻中隔湾曲症は、内視鏡による日帰り手術で治療が可能です。
鼻中隔湾曲症の原因
鼻中隔を構成している「鼻中隔軟骨」「篩骨正中板(しこつせいちゅうばん)」「鋤骨(じょこつ)」は、成長スピードが違います。そのため成長期にタイミングがずれると徐々に曲がって成長していきます。そのため子どもの鼻中隔はほとんどがまっすぐですが、成人の鼻中隔はだれしも大なり小なり曲がっています。
人類が直立したことが原因にあると指摘されており、人類特有の大きな脳の発達した前頭葉の重みが鼻中隔にかかることで湾曲が起きるとされています。
鼻中隔湾曲症の種類
曲がる位置や湾曲の形状により多数の種類に分かれています。「上方型」「下方型」「K字湾曲(くの字)」「L字湾曲」「S字湾曲」「C字湾曲」などがあります。
鼻中隔湾曲症の症状と弊害
代表的な症状は鼻づまり(鼻閉)ですが、粘膜が引き延ばされて弱くなり鼻血が出やすい、アレルギー性鼻炎が悪化しやすい、慢性副鼻腔炎の悪化や再発を起こしやすいなどがあります。味覚障害や嗅覚障害、中耳炎などを合併する場合もあります。
また酸素供給量が減ることによる頭痛、吐き気を伴う片頭痛が起こる可能性もあります。
鼻は全身に酸素を供給する呼吸に欠かせない器官であり、これが妨げられると脳への酸素供給量も減ってしまうため集中力低下や睡眠障害などのリスクが大幅に上昇します。また、鼻が詰まって口呼吸をしていると喉への感染リスクが高まり、風やインフルエンザなどにかかりやすくなるなどのさまざまな弊害をもたらします。鼻づまりは症状として軽く思えますが、クオリティ・オブ・ライフを大幅に低下させ、お仕事や学業、スポーツ、そして健康にも悪影響を与えます。快適な生活のために、そして持っている才能を思いきり破棄するために、鼻中隔湾曲症の治療をご検討ください。
鼻中隔湾曲症の検査
適切な治療方針を立てるためには、湾曲の位置や形状などを調べるだけでなく、慢性副鼻腔炎やアレルギー性鼻炎などを合併していないかを調べる必要があります。
視診
鼻鏡を用いて鼻腔を観察します。
内視鏡検査
細い内視鏡を鼻腔に挿入して、形状や位置、粘膜の状態などを詳細に観察します。
CT(コンピュータ断層撮影)検査
断層撮影を行って鼻中隔の曲がり方を正確に把握します。副鼻腔炎の合併がある場合には、その状態も正確に観察できます。
鼻腔通気度検査
鼻に機械を当てて鼻呼吸していただく検査です。空気の通り具合が客観的な数値で表示されます。
アレルギー検査
花粉症などのアレルギーが疑われる場合には、それを調べる検査を行います。
鼻中隔湾曲症の治療
原因が骨と軟骨の湾曲ですから、完治には手術が必要です。ただし、手術が難しい場合や症状がそれほどひどくないケースでは症状を軽減させる対症療法も可能です。対症療法には一時的な効果しかなく、結果的に症状悪化につながる可能性もありますので、そうしたリスクも考えて相談しながら治療方針を決めていきます。
参考
左右の鼻腔をへだてている鼻中隔は、構成している軟骨や骨の成長スピードが異なるため、成長タイミングのずれなどにより曲がってしまいます。成人はほとんどの場合、鼻中隔が曲がっていますが、生活に支障がなければ問題はありません。湾曲が大きく、鼻腔に張り出している部分が大きいと鼻づまりが起きやすく、アレルギー性鼻炎の悪化や副鼻腔炎の再発などが起こりやすくなります。また呼吸が浅くなって脳への酸素供給量が減ってしまうため、集中力低下や頭痛、睡眠障害などが現れることもあります。こうした症状によりクオリティ・オブ・ライフが下がってしまっている、お仕事や学業、スポーツなどに悪影響を与えている場合には治療が必要です。
個々の症状を緩和させる対症療法もありますが、根本的な治療には手術が不可欠です。当院では、局所麻酔による日帰り手術を行っています。
こんなお悩みがある方に手術をおすすめしています
- 鼻づまりがひどい
- 鼻血が出やすい
- 無意識に口呼吸をしている
- 睡眠時に無呼吸になる(眠りが浅い・すぐ目覚めてしまう)
- 嗅覚障害や味覚障害が起こっている
- 脳への酸素不足で頭痛や片頭痛がある
- 対症療法で改善しない
- 副鼻腔炎が再発しやすい
対症療法
点鼻薬を含む薬物療法、ネブライザー療法、鼻腔拡張テープの使用などがあります。
薬は抗ヒスタミン薬、抗アレルギー薬、ステロイド点鼻薬、抗炎症薬や抗生物質、アレルギー性鼻炎の内服薬などがあり、症状に合わせた処方を行います。ご注意いただきたいのは点鼻薬を長期間使用すると慢性肥厚性鼻炎(薬剤性鼻炎)を引き起こし、血管が開いて粘膜が厚くなって症状を悪化させるケースがあることです。そのため、対症療法は専門医による経過観察が不可欠です。
手術(鼻中隔矯正術)
局所麻酔をして鼻の穴に器具を挿入し、鼻中隔を切開して曲がっている部分の鼻中隔軟骨を切除してまっすぐに整える手術です。術後は鼻中隔軟骨の補強と粘膜修復を促進するために、スポンジを鼻の穴に詰め、感染防止のために抗菌薬を服用します。副鼻腔炎の手術と同時に行うことも可能であり、当院では日帰り手術を行っています。ご帰宅後は安静が必要です。
成長前にこの手術を受けると成長に悪影響がおよぶ可能性があるため、顔面の骨格が完成する19歳以降の手術が可能です。なお、術後に鞍鼻という鼻がへこむリスクがあるため、信頼のおける熟練した耳鼻科専門医による手術を受けてください。また、手術を受けたら、鼻に強い衝撃を受けないように注意します。
鼻中隔湾曲症の手術
顔面の成長前にこの手術を行うと成長に悪影響を与える可能性があるため、手術が受けられるのは19歳以上です。
局所麻酔を行って曲がっている部分の鼻中隔軟骨を切除し、まっすぐな部分だけにします。また、粘膜下下甲介骨の一部を除去する場合もあります。肥厚性鼻炎がある場合は、鼻中隔矯正術や飛び出している骨を削る粘膜下下甲介骨切除術に加え、分厚くなった粘膜を削る鼻甲介粘膜切除術を行います。
手術後の鼻の高さ、形状に変化はありません。手術は鼻腔内で行うので傷が見えることもなく、手術痕は治癒したら全くわからなくなります。
日帰りで受けられるとはいえ手術ですから、術後に出血する可能性がありますので、ご帰宅後は安静を守ってください。また、熟練した専門医であれば限りなくゼロに近い頻度ですが、鼻中隔に穴が残る鼻中隔穿孔、鼻がへこむ鞍鼻などが起こる可能性がありますので、実績がある専門医の手術を受けるようにしてください。
鼻中隔矯正術
鎮痛と止血の効果を十分に得られるよう、局所麻酔とガーゼ麻酔を行います。局所麻酔で苦味を感じることや動悸が一時的に激しくなることがありますが、すぐに収まります。
湾曲している鼻中隔粘膜をメスで切開して、軟骨膜下と骨膜膜下を剥離させます。
鼻中隔軟骨を切開して粘膜と軟骨を剥離させ、鼻中隔軟骨や骨の曲がっている部分を切除します。
骨を削る、軟骨をくり抜く、軟骨を外して削ってから戻すなどの手法があり、適したものを行っていきます。
止血して鼻中隔粘膜をフィブリン糊で貼りつけます。
必要がある場合にはここで続けて粘膜下下甲介骨切除術と鼻甲介粘膜切除術を行いますが必要ない場合には術後の処置を行います。
術後の処置は、当日のみガーゼを入れ止血します。鼻呼吸は半日できません。
術後、1~2時間、リカバリールームでお休みいただき、問題がなかったらご帰宅となります。
翌日全てのガーゼを抜き、その後は何も詰めませんので、そのまま仕事復帰が可能です。
クリニックから直接会社へ出勤される方がほとんどです。
粘膜下下甲介骨切除術と下鼻甲介粘膜切除術
下甲介粘膜前端部をレーザーメスとデブリッダー(シェーバー付き吸引システム)で切開して、粘膜と下甲介骨を剥離子で丁寧に剥離し、余分な下甲介骨を切除します。粘膜が分厚くなっている場合には、ここで粘膜の切除をする下鼻甲介粘膜切除術を行います。
粘膜をフィブリン糊で貼りつけ止血します。下鼻甲介後方の血管をレーザーで焼いて糊で残った粘膜をロール状に丸めて接着するので瞬時に形が整います。
これは院長独自の方法で、おそらく鼻の詰め物の留置時間は最短で、社会復帰も最短となる方法です。
術後の処置は鼻中隔湾曲症の手術と同様です。
手術の所要時間
手術自体は1時間程度で終了しますが、麻酔などの準備や術後の注意点などのご説明、手術後の安静などを含め、ご来院からご帰宅までは4時間程度を目安にお考えください。
痛みについて
局所麻酔を注射で行うため針を刺した時のチクッとする痛みはありますが、手術中の痛みはありません。また、術後は軽い痛みで済む場合がほとんどです。鎮痛薬を処方しますので、痛みが気になったらそれを服用してください。
ご注意
鼻軟骨を削りますので鼻中隔軟骨は弱くなり、大きな衝撃を受けると鼻がへこむ可能性があるため、鼻への衝撃をできるだけ避けるよう心がけてください。
術後の過ごし方
抗菌薬を服用して安静を保ち、二次感染や出血を防ぎます。
鎮痛剤もお渡ししていますが、痛みが気にならないようでしたら鎮痛剤の服用は中止しても大丈夫です。ただし抗菌薬は決められた処方を守ってすべて飲み切ってください。
当日の運動は厳禁ですが、食事は当日の夕飯から普段通りのものを召し上がっていただけます。ただし、刺激の強いものは避けてください。
当日の飲酒や入浴は禁止です。
鼻には圧迫と止血のためのスポンジが挿入されており、中央にシリコンチューブが通っているため鼻呼吸も可能ですが、血液が固まるなどして完全に詰まる可能性もあります。その際にもご自分でスポンジをとることはいないでください。
翌日の受診時に医師がスポンジを除去し、経過を観察します。
血液が混じった鼻汁が多い場合には、綿栓で対応します。この綿栓はご自分で交換可能です。血液の量は徐々に減っていきます。
しばらくは強く鼻をかまないようにしてください。
仕事の復帰
お仕事内容や状態にもよりますが、手術日と翌日はお休みいただくようお願いしています。
合併症などのリスクについて
出血や鼻中隔の穿孔、鼻がへこむ鞍鼻などが考えられますが、こうした合併症が起こる可能性は経験豊富な専門医であればかなりまれな頻度でしか起こりません。
費用について
すべて健康保険の適用されます。下記記載の金額は3割負担となります。
※下記の費用には、麻酔薬、点滴薬、医療材料等の費用は含まれておりません。
鼻中隔矯正術 | 8,230点(自己負担額24,690円) |
---|---|
内視鏡下鼻中隔手術Ⅰ型 (骨、軟骨手術) |
6,620点(自己負担額19,860円) |
内視鏡下鼻腔手術Ⅰ型 (下鼻甲介手術) |
6,620点(自己負担額19,860円) |
なお、下鼻甲介手術は両側に行う必要があるため、上記の費用を2倍した金額になります。
日帰り手術
局所麻酔で内視鏡下鼻中隔手術と両側の下鼻甲介手術を受けた場合、再診料、処方料を含め5~6万円程度が目安となります。これはさらに下鼻甲介粘膜切除術を同時に受けても同じ金額です。
保険会社の手術給付金について
保険会社や契約内容によって対象になる手術が変わってきますので、契約されている保険会社にお問い合わせください。
その際には、「内視鏡下鼻中隔手術Ⅰ型(骨、軟骨手術)」「内視鏡下鼻腔手術Ⅰ型(下鼻甲介手術)」など、受ける予定の手術手法を伝える必要があります。診察時に保険会社の手術給付金を検討されていることをお伝えくだされば、手術の名称を記入したメモをお渡しするなどをしています。お気軽にご相談ください。